同じ嵐なのに、名前が違う 台風・ハリケーン・サイクロン

コラム

10月も、もう早くも下旬となりました。福岡では、今、週末の空に関心が向けられています。

10月23日朝の気象庁の予報では、台風第30号は23日から24日にかけて先島諸島に最接近したあと、東シナ海を北上する見込みです。25日には九州の西に接近し、26日には前線上の温帯低気圧に変わると予想されています。九州北部では強風や高波に注意が必要で、土砂災害や大雨が警報級となる可能性も高いとされています。ただし、福岡の真上を通ると決まったわけではありません。

進路も強さも、このあと変わる可能性があります。最新の発表を確認してください。

同じような嵐は、海が変わると名前が変わります。アメリカではハリケーン、インドの周辺ではサイクロン。呼び方と、受けとめ方を、少したどってみます。

海の区域が変わると、名前が変わる

南の暖かい海で生まれ、水蒸気をエネルギーにして発達する低気圧を、熱帯低気圧と呼びます。太平洋でも、大西洋でも、インド洋でも、同じ現象を通して生まれ、共通する部分の多い仲間です。

名前は、生まれた海の区域と、風の強さで分かれます。

日本の近く、赤道より北で東経180度より西の太平洋と、南シナ海では、最大風速がおよそ秒速17メートル以上になると「台風」と呼ばれます。時速にすると、およそ60キロです。風に向かって歩きにくい、というのが時速60キロの風の強さの目安です。気象庁では、10分間の平均で風速が算出されています。

アメリカの近く、大西洋、カリブ海、メキシコ湾、北東太平洋では、およそ秒速33メートル以上、時速およそ120キロ以上になって、「ハリケーン」と呼ばれます。アメリカの階級の評価は、1分間の平均値で観測することが多いです。短い時間で平均すると、数字は大きく出やすくなります。

インドの周辺、ベンガル湾やアラビア海では「サイクロン」と呼ばれます。気象庁の説明では、およそ秒速17メートル以上から、この名前が付きます。日本の台風に近い基準が設定されています。

日本の台風のうち、秒速33メートルに届かないものは、アメリカではトロピカル・ストームに近いです。トロピカル・ストームは、日本の天気予報で「台風に満たない熱帯低気圧」と言うときの熱帯低気圧よりは強く、ハリケーンよりは弱いです。ただ、日本の台風とアメリカのトロピカルストームには、このように風速の範囲が重なる部分はあるのですが、平均風速を求める時間が異なるため、直接の比較はできません。国際的な分類で使われる typhoon は、最大風速がおよそ秒速33メートル以上の熱帯低気圧を指します。気象庁では、10分間の平均でこの風速に達すると、「強い台風」という階級になります。

同じように発生した雲の渦なのですが、どの海にいるのか、どの基準で見ているのかで、呼び方が変わることになります。

日本は、番号と円で見る

日本では、その年に台風と認められた順に番号が付きます。今、進路が心配されているのは、週末の台風第30号です。

2000年からは、番号と一緒に、アジアの国と地域が提案した名前も付くようになっています。気象庁の説明では、140個の名前を繰り返して使っています。ただし、大きな災害となってしまった場合には、その名前は、繰り返し使用するリストから外され、別の名前が新たにリストに追加されることがあります。1999年までは、アメリカ側が使用した英語の名前が使われていました。台風委員会に加盟する14の国と地域が提案した140個のうち、日本の10個は星座の名前です。

予報で用いられる円も、役割が分かれています。

白い破線の円は、予報円です。その時刻に台風の中心が入ると予想される範囲で、入る確率はおよそ70%だと気象庁は説明しています。円が大きいのは、まだ進路として通る可能性のある幅が広いという印です。先の進路ほど、円は大きくなっていきます。そして、台風そのものの大きさを描いた円ではありません。台風の中心が、円の真ん中を結んだ線の上を進むということを表しているものでもありません。

暴風域は、いまの範囲です。10分間の平均風速で25メートル以上の風が吹いているか、地形の影響がなければ吹く可能性のある範囲を指し、気象庁の図では赤い太線の円で示されます。

暴風警戒域は、これからの範囲です。中心が予報円の中へ進んだ場合に、暴風域に入るおそれのある範囲で、予報円の外側を囲む赤い実線で示されます。予報円の中の土地全部が、暴風になるという意味ではありません。

「来る」と「上陸」も、天気予報の言葉では分かれています。上陸と言われるのは、台風の中心が北海道、本州、四国、九州の海岸に達したときです。小さな島を短時間で横切るのは、上陸とは別に扱われます。気象庁の台風統計では、国内の気象官署等から300キロ以内に中心が入った場合を、その地域への接近としています。福岡の空が荒れる、つまり気象状況が悪化することと、台風の中心が海岸に達する上陸は、別のことです。中心が海上にとどまっていたとしても、雨や風は陸の環境へ大きく影響することがあります。

1991年から2020年の平均では、台風は年間およそ25個発生し、およそ12個が日本に接近し、およそ3個が上陸しています。多いのは7月から10月です。10月の下旬も、季節はずれというわけではありません。

アメリカでは、風の強さと高潮に注目する

大西洋では、ハリケーンの強さを1から5の階級で伝えるのがふつうです。数字が大きいほど、1分間で見た風が強い、という評価になります。平均する時間の間隔が違うので、日本の「強い」「非常に強い」「猛烈な」といった表現と、アメリカの1から5の評価を同じ表の中で並べるのは難しいです。

沿岸に関する情報で繰り返し伝えられているのは、風に加えて、海面が押し上げられる高潮についてです。どの区域にまず避難を促すのかという決定が必要な場面では、この高潮の状況というのは大きな理由として挙がります。各家庭では、窓を木材や雨戸で覆う備え、避難先の情報が話題になります。

インドの海では、国をまたいで一つの名前にする

北インド洋でサイクロンに名前が付くようになったのは、2004年です。バングラデシュ、インド、モルディブなど、その海に面した国々が名前を出し合います。使った名前は、繰り返して使いません。

国が違っても、同じ嵐を同じ名前で認識できるようにするためです。母国語がいくつもある地域では、言語により発音の異なる番号だけのラベルよりも、名前を付けたほうが伝わりやすいという考え方です。

この海域では、低い海岸に人が多く住んでいます。大きなサイクロンが発生すると、早めの情報の共有と、避難できる場所を増やすことが、備えの中心になってきました。風が強くなる前に、安全な場所へ移動する、という対策が中心です。

ほかの海にも、それぞれの呼び方があります。フィリピンでは、国際的な名前とは別に、国内で使う名前が付くことがあります。地元の言葉では、バギオとも呼びます。南半球のオーストラリア周辺では、トロピカル・サイクロンと呼ぶことが多く、渦の回る向きは北半球と逆になります。

日本の言葉も、ずっと同じではなかった

今の「台風」も、最初からこの字だったわけではありません。

平安時代から、秋の強い風を「野分(のわき、のわけ)」と呼ぶことがありました。源氏物語には「野分」という巻があります。枕草子にも、野分の翌朝の段があります。野分は、現在の気象学の台風のみを指す言葉だったとは限定されていません。秋の強い風を広く指していました。

明治の終わりごろ、気象学者の岡田武松が、「颱風」を学術用語として用いた、と伝えられています。英語の typhoon にあたる言葉です。国語辞典には、明治40年(1907年)に学術的な定義が与えられ、大正時代から一般化した、とあります。

戦後の1946年、日常で使う漢字を示した当用漢字に「颱」は入りませんでした。その後、同じ音の「台」を使って「台風」と書かれるようになります。この「台」は、台風の意味をもともと持つ字ではありません。

英語の typhoon の、さらに古い由来も一つに定まっていません。中国南部の「大風」を語源とするという説、アラビア語やペルシア語で嵐を指す言葉を語源とするという説、ギリシャ神話の怪物テュポーンに由来するという説があります。

呼び方が変わっても、海の上で発達する低気圧であること自体は変わりません。変わったのは、それをどの範囲で、どの強さから、何という名前で共有するかです。

今日、見るならこの二つ

週末に向けて、今日見ておきたいことは二つです。

一つは予報を一度じっくり見てみることです。白い破線の予報円と、外側の赤い暴風警戒域を、別のものとして見てください。円が九州を覆っていても、それは中心が入りうる範囲が広い、ということです。自分の町が暴風域に入るかどうかは、暴風警戒域と、自治体の情報をあわせて見ます。

もう一つは、自宅の外に置かれた軽いものです。洗濯物、植木鉢など、飛ばされそうなものは、風が強くなる前に屋内へ移動するか、しっかり固定しておきましょう。

水や食料、薬、家族との連絡については、9月の備えの記事で触れています。一度ご確認いただきたいです。

各国で名前が違っていても、見ているのは同じ種類の嵐です。福岡の週末は、中心がどこまで来るか、まだ決まっていません。予報円の大きさと、暴風警戒域を、一度確認してみてください。

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参考情報

呼び方と定義は2026年10月21日に、台風第30号の進路は2026年10月23日朝に、次の公式資料で確認しました。

  • 気象庁「台風とは」
  • 気象庁「台風の大きさと強さ」
  • 気象庁「台風の発生、接近、上陸、経路」(統計期間は1991〜2020年)
  • 気象庁「台風情報の種類と表現方法」
  • 気象庁「台風の番号とアジア名の付け方」
  • 気象庁「台風について」
  • 気象庁「気圧配置 台風に関する用語」
  • 気象庁「短期予報解説資料」(2026年10月23日03時40分発表。台風第30号の進路)
  • 小学館「日本国語大辞典」の「台風・颱風」の項
  • 世界気象機関(WMO)「北西太平洋および南シナ海の熱帯低気圧の名前」
  • 世界気象機関(WMO)「北インド洋の熱帯低気圧の名前」(命名開始は2004年。使った名前は繰り返さない)
  • 米国国立ハリケーンセンター「Saffir-Simpson Hurricane Wind Scale」(1分間平均の最大風速による1から5の区分)
  • 米国国立ハリケーンセンター「Storm Surge Overview」(高潮は、階級の数字とは別に伝える危険)
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