食欲の秋と、旬の野菜が食卓に乗るまで

コラム

9月は、「食欲の秋」という言葉を聞くことの多い季節です。

産地によっては、このころから新米が出回り始めることもあります。

当院の畑で育てているのは、野菜です。

店先や食卓では、秋の訪れを、野菜の顔の変わり方でも感じることがあります。

いま並んでいる野菜は、ずっと昔から、同じ形で日本の皿に乗っていたのでしょうか。

旬の野菜は、どこから来て、いつごろ、日常の食事に入ってきたのでしょうか。

確認できる範囲で、食卓までの道のりを見てみます。

旬は、季節と、いつもの食事のあいだにあります

旬という言葉は、食材がその土地で多くとれ、出回りやすくなる時期を指して使われます。

いまは、一年を通して手に入る野菜も増えています。

秋になると、実もの、根もの、葉ものの並びが、少しずつ入れ替わって見えることがあります。

新米の時期は、産地によって違います。

農林水産省の2024年8月の大臣記者会見では、例年、新米は8月中から九州などの早期米が出回り始め、9月には流通が本格化すると説明されています。

米は、秋の暦を感じる入口の一つです。

畑で見ているのは、野菜の方です。

出身地が遠くても、食卓に乗るまでの時間は別です

いまの食卓には、海外を起源とする野菜も多く並んでいます。

たとえばナスは、農研機構によると、原産地はインドの東北地方で、中国から8世紀以前に日本へ伝わったとされています。

平安時代には、「奈須比」として伝わった、とも説明されています。

古くから、日本の食卓に近い野菜の一つです。

一方、カボチャ、トマト、じゃがいも、トウモロコシなどには、中南米など、日本から遠く離れた地域を起源とするものがあります。

これらの野菜は、それぞれ異なる経路をたどり、おおむね16世紀以降、日本へ伝わってきました。

伝わった年と、毎日の野菜になった時期には、開きがあります。

農林水産省によると、トマトは17世紀なかばに日本へ伝わったとされ、当初は鑑賞用でした。

食用として広く使われるようになったのは、明治時代に入ってからです。

じゃがいもは、16世紀末から17世紀初めごろ、東南アジア経由で伝わったと説明されることがあります。

名前の由来を、ジャガタラ(いまのジャカルタ)に求める話もよく知られています。

細かい年代は、資料によって差があります。

空心菜は、沖縄県の「沖縄の伝統的な食文化」では、中国や熱帯アジアが原産とされています。

同じ資料では、沖縄では古くから栽培されてきた、と説明されています。

畑でも、ナス、カボチャ、トマト、じゃがいも、トウモロコシ、空心菜を見ることがあります。

今回見るのは、遠い土地から来た実物が、いまの皿に乗っている、というところです。

種が来てから、いつもの献立に入るまで

戦国や江戸のころに種が届いても、日常の食事になるまでには、時間がかかることがあります。

トマトのように、観賞用として知られたあと、明治以降に食卓へ広がったものがあります。

じゃがいもは、伝わったあとも、救荒作物として広まった、と説明されることがあります。

日常のおかずとして定着するまでには、さらに時間がかかっています。

平成、令和の食卓では、流通が長くなり、輸入も増え、一年中似た野菜を見かけることも多くなりました。

旬を感じにくくなった、という声がある一方で、秋になると、やはり実ものや根ものが目に入りやすくなる、という感覚も残っています。

今回確認できるのは、伝わった時期と、食卓に乗る時期が、ずれることがある、という構造です。

いまの食事で、野菜はどこに置かれているか

いまの食生活では、野菜は副菜や汁物、炒め物など、日々の食事の中に取り入れられています。

特別なコースの中心、というより、いつもの食事の脇を支える位置です。

厚生労働省の「健康日本21(第三次)」では、野菜摂取量の増加が目標の一つとされ、1日350gが目標として示されています。

令和6年の「国民健康・栄養調査」では、20歳以上の野菜摂取量の平均値は258.7gで、目標の350gより少ない結果でした。

この258.7gは、20歳以上を対象とした調査の平均値です。

毎日グラムを測るより、いつもの皿に野菜を足す方が、続きやすいことがあります。

目標は、方向を示す看板のようなものです。

いつもの汁物に、今出回っている野菜を足す。

副菜を一皿だけ増やす。

食べ慣れた炒め物に、旬のものを一つ加える。

いつもの食事に、旬の野菜を一つ加えるところからでも始められます。

秋は、実ものや根ものが手に入りやすい時期の一つです。

その時期に、いつもの皿へ一つ足してみる。

それくらいの距離が、いまの野菜の位置づけには合っています。

畑の実物と、食卓はつながっています

畑では、遠い土地が原産の野菜と、古くから日本で作られてきた野菜が、同じ季節に並ぶことがあります。

種を選ぶときは、育てやすさや旬を先に見ることが多いです。

皿に乗ったときに、「これは、ずいぶん遠回りして、いまの食卓に来たのだな」と感じることがあります。

歴史の細部より先に、今日の食事へ、今出回っている野菜を一つ足してみる。

食欲の秋は、そのくらいの受け止め方でもよさそうです。

今後も、暮らしの中で見直せる話を、少しずつお伝えしてまいります。

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参考情報・出典

  • 農研機構「ナスのお話」
  • 独立行政法人農畜産業振興機構「今月のやさい:なす」
  • 農林水産省「トマトまるごと まるわかり!」
  • 日本いも類研究会「じゃがいもMiNi白書」
  • 沖縄県「沖縄の伝統的な食文化」(ヨウサイ エンサイ(クウシンサイ))
  • 農林水産省「坂本農林水産大臣記者会見概要」(令和6年8月27日)
  • 厚生労働省「健康日本21(第三次)」
  • 厚生労働省「令和6年国民健康・栄養調査報告」
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